今から22年前、1994年頃にHさんが購入したジャンポール・ゴルチエのトップス。かなりタイトな作りで紐部分をハイウエストあたりで結ぶようなデザインになっている(写真1,2,3)。1976年にゴルチエがデビューしてから発表してきたコルセット、ガードル、身体にフィットしたラインといった非常にゴルチエらしい黎明期の時代の衣服だ。素材は化学繊維(おそらくナイロン?)と思われるが、チュールやニットのような伸びる形態で体のラインがはっきりと見える(写真4,5)。着用者のHさんはまだ当時学生だったが東京に行った際、青山のゴルチエのお店で購入した。地方ではなかなかゴルチエのお洋服が手に入りにくくこの機会に「何か買おう!」と心に決めており、そのためにお金を貯め購入したそうだ。
20代前半の多感な時期に思い切って購入した一着だが実はあまり着用していない。今も昔もHさんのお洋服は黒と赤の組み合わせが多く、このトップスは黒いスカートに差し色として着ようと思って購入した一着だった。しかし実際着てみると普段は着ない色味と顔の近くに柄がくることの違和感で着たいと思って着るが似合わず落ち着かない、やはり着るのをやめるというループを繰り返し結局あまり着ていないというのだ。この一着が自分の装いの新たな突破口になるかもしれない、という気持ちもあり手に取ったようだが結果として「やはりシンプルがいい」「黒と赤が落ち着くな」という結論に落ち着いた。
このトップスはその後ずっと実家に置いてあり、衣類の整理は幾度となくあったがその度に捨てずに残していた。あまり着ることはなかったけれど、この一着が自分を知るための一着になり、その後のHさんの装い・スタイルが確立していく一助になったと思うとなかなかに存在感のある衣服である。案外自分自身のことは遠く、分からないことは多い。自分に対する気づきはある種新しい自分との出会い。この服はHさんにとってその扉だったのかもしれない。